「学びに向かう力」を育てる授業の現状と課題

会報「教育のひろば石川・№154(令和2年2月発行)」に掲載した内容です。

文科省HPより(R1.9.13 教育振興会)
1.改定に込められた願い
  学校で学んだことが,子供たちの「生きる力」となって,明日に,そしてその先の人生につながってほしい。これからの社会が,どんなに変化して予測困難な時代になっても,自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,判断して行動し,それぞれに思い描く幸せを実現してほしい。そして,明るい未来を,共に創っていきたい。
  2020年度から始まる新しい「学習指導要領」には,そうした願いが込められています。これまで大切にされてきた,子供たちに「生きる力」を育む,という目標は,これからも変わることはありません。
 一方で,社会の変化を見据え,新たな学びへと進化を目指します。
生きる力 学びの,その先へ 新しい「学習指導要領」の内容を,多くの方々と共有しながら,子供たちの学びを社会全体で応援していきたいと考えています。

2.何ができるようになるの?(資質・能力の三つの柱)
  新しい時代を生きる子供たちに必要な力を三つの柱として整理しました。
・(学んだことを人生や社会に生かそうとする)学びに向かう力、人間性など
・(実際の社会や生活で生きて働く)知識及び能力
・(未知の状況にも対応できる)思考力、判断力、表現力など
  「何のために学ぶのか」という学習の意義を共有しながら,授業の創意工夫や教科書等の教材の改善を引き出していけるよう,すべての教科でこの三つの柱に基づく子供たちの学びを後押しします。

3.どのように学ぶの?(主体的・ 対話的で深い学び)
 主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の視点から「何を学ぶか」だけでなく「どのように学ぶか」も重視して授業を改善します。

4.「座談会」~副題~設定理由 (案)
 学習スタイル(授業展開マニュアル)の設定によって、若い先生も「授業パターン」を把握し、「知識・技能」や「思考力・判断力・表現力」を育てようと日々努力している。「主体的・対話的で深い学びという視点から『何を学ぶか』だけでなく『どのように学ぶか』も重視して授業を改善します」と、文科省が授業改善に焦点を当てています。
 そこで、授業の永遠の課題とも言うべき「主体的な学び」について、現場の教師に集まって頂き、新指導要領の3本柱の1つの「『学びに向かう力』を育てる授業について現状と課題」をサブテーにとして座談会を開催しました。
 「教師力」は、「学級づくり・授業づくり」が最大の課題です。この座談会での話題が、若い教師達の刺激になることを願っています。

座談会「参加者」敬称略

○司 会   大杉  繁 氏(金沢教育振興会 副会長)
○出席者   松多 祐里 先生(白山市立美川小学校 2年担任)
       塗谷 健司 先生(金沢市立明成小学校 6年担任)
       丸岡 静華 先生(金沢市立扇台小学校 6年担任)

 

座談会記録抜粋

司会 新学習指導要領では、子どもの「学びに向かう力」「人間性の涵養」が育てるべき資質・能力の柱として掲げられています。そして「主体的・対話的な深い学び」に視点を置き、何を学ぶかだけではなく、どのように学ぶかを大切にした授業改善が期待されています。
 そうした中で、先生方は学習スタイルを設定し、また授業パターンを把握して思考力・判断力・表現力を育てようと一生懸命取り組んでいます。
 では期待されている学びに向かう力は育っているのでしょうか。例えば、単元を通じて自分で課題を見つけ、問題解決していくなど、子どもが目的意識を持って意欲的に学習にチャレンジしていく姿は、授業の中で見られるのでしょうか。学びに向かう力は、本来は学校教育の場だけではなく、社会に出てからも問題解決していく上で大切な力になると考えられます。では実際にその力は育っているのでしょうか。子ども一人一人の学びの違いや子どもの取り巻く環境など難しい面もあるかと思います。
 今回の座談会では、学びに向かう力の現状と課題について、また、育てるためにどんなことができるのかを話し合いたいと思います。

塗谷 学びに向かう力とは何か。理科の学習指導要領では「主体的に問題解決しようとする態度」と示されていたので、「学びに向かう力」は「主体的に学ぶこと」と捉え直しました。つまり、「主体的に学ぶ」とは学ぶことに興味・関心を持つこと・見通しを持って粘り強く取り組むこと・自己の学習を振り返って次に繋げる学びをしているかということです。
 そこで現状ではどうか、主体的な学びになっているかどうか考えてみました。まず学ぶことに子ども達が興味・関心を持っているか見ていると、興味・関心を持っている子といない子がいます。持てている子は自分で課題意識を持って学習を進めていき、学習意欲もあります。
 しかし、そうでない子は学習する価値を持てていなかったり、興味・関心を持てていなかったりすること  があります。それが今の課題です。また、見通しを持って粘り強く取り組んでいるかというとそれも課題として上げられます。

丸岡 主体的に粘り強く取り組む姿という視点で見た時に一番思うのは、子ども達は受身であるということです。自分達は教えてもらう立場であるという意識だったり、四十五分座っていて学習したつもりになっていたり、聞いていることが学んだつもりになっていることです。
 自分からこれを掴んだとか目的を持って授業に臨む姿が主体的な姿だと思っていますが、受身な姿が見られるのが残念です。

松多 私も同感です。新学習指導要領は何を学ぶかとか、子ども達が何ができるようになるかを重視しているので、より学習する側の子どもの視点に立って授業を進めていくことが大切であると思います。


塗谷 私も同じ悩みを持っています。キーワードとしているのは「自分ごと」です。子ども達はどうしても受け身になってしまいがちです。子ども達がどうしたら「自分ごと」として捉えていけるかが悩みです。

松多 学習スタイルの設定によって若い先生も授業パターンを把握しているということで、問題解決型の授業の実践に取り組み授業改善しています。スタイルに沿って授業を進めることによって、考えたくなるような問題提示の仕方を考えたり、学習課題づくりをしたりしています。また、深めるための発問はどんな発問が効果的なのか等、日々考えながら実践されていて私も勉強させていただいています。
 ただ、学習スタイルの形式に当てはめていくだけでは子ども達に「学びに向かう力」を付けるのは難しいと感じます。できる子・分かる子だけで授業が進んでいる気もします。
 授業の中で深まりがあっても、一部のできる子で進んでいたら授業は成立していると思えませんので、そういった部分をもっと改善できたら良いと思っています。

丸岡 私達が「こなす」になってしまうと、子ども一人一人を置き去りにしてしまうのではないでしょうか。どの子も意欲を持って頑張ろうというスタンスで学校に来ています。それを教師のやり方がまずくて意欲をそいでいる気がします。
 誰もが四十五分ここにいて良かったという子どもの思いをくみ取ったり大事にしたりする授業にしていかなければいけないと思います。

塗谷 例えば、算数だと問題があり、それに対して自力解決した後みんなで交流してまとめるのですが、自力解決のところでつまずいている子がいます。
 でも最終的にはまとめまでいくことがゴールなので、できている子に発表させ「なるほど」と言ってまとめができる。一見きれいに見えますが、分からない子にとってみると、今日の授業をやってよかったと思えるかどうかが疑問です。

松多 私もその通りだと思います。友達の意見を聞いたとしても聞いただけで考えを理解したりその考えのよさを味わったりすることは難しいものです。
 今、ペア・グループ活動を取り入れ、話し合いながら学び合う活動を行っていますが、交流しても子ども達が見方や考え方を自分のものとするのが難しいです。ペア・グループで自分のノートを発表するだけで終わり、学び会えないこともあります。有効的な交流をするために、教師の仕掛けや指導の積み重ねが大事になってくると思います。

丸岡 ペアやグループ活動の必要感が大切です。子ども達から「今自分の考えが固まっていないから少人数で考えたい」等,子ども達自身が学習形態を選ぶことができる力が必要だと思います。

塗谷 分からないと言えるクラスにすることが大切だと思います。分からないから「~したい」になっていけばいいのですが、学習スタイルがあるとかえって分からないと言えなくなってしまう危険性があります。分からないから友達に聞く、調べるが大事なのに分からないと言えなくなっていることもあります。

松多 「学びに向かう力」というのは、分からないから自分で調べるとか既習の知識技能を使って考えていくことですが、場合によっては、周りの人に聞いていくことも問題に向かう時に必要な力だと思います。

司会 「分からない」ということを言えたり、「こういうことをしたい」と言えることは学びの力ですが、なかなかできていない現実がありますね。原因の一つは、子どもが受け身だということです。自分のものとして学習を捉えきれていないのですね。
 一人一人の充実感やこんなことができたという達成感を味あわせていないことも考えられます。そうすると、これからの指導する上での課題は何でしょうか。


丸岡 自分の課題は、どこでどう問うのかです。子どもの意欲を喚起するには、教師の対応が大切だと思うのですが、そのタイミングが重要です。こちらが出たことによって意欲が半減することがあります。
 また、出場を待って待って待ったあげく、結局何も深まらなかったという事もよくあります。結局は子ども一人一人の表情や体の動きの見取りだとは思うのですが、現状は難しいです。

塗谷 基本教師が出ないのが理想だと思っています。子ども達だけで深めていくことです。もし教師が出るなら課題の時どう興味を持たせるかやまとめる場面です。それ以外出なくていいと思っていますが、自分自身はよくしゃべってしまいがちです。最初と深めだけでいいと思ってはいますが…。

松多 ある子どもが発言したことを、みんなが分かっているかどうかを問い返して、みんなに考えさせることが教師の大事な出場だと思います。
 例えば算数で「半分にする」と言うのを「半分にするってどういうことかな」と問い返すことや「半分って二分の一にすることや」「0.5にすることや」と言う子ども達に、図や式を使って多様な方法で確かめてみることが教師の出場の一つだと思います。聞き手話し手の思っていることを理解したと思っても、難しくて理解していないことも多いので、言葉を換えたり図を描いてあげたりしないといけないのではないでしょうか。
 ベテランの先生方は指導案で書いてあることと違う意見が子ども達から出ても上手にやりとりしてねらいに迫り、ゴールまで到達させます。

司会 現状を踏まえてどういうことをしていけば「学びに向かう力」がついていくのか。こんな事が出来るのではないかについて、話し合いを進めたいと思います。

塗谷 主体的な学びに向かうためには何が必要か考えると導入が大事だと思います。導入に興味が持てるものを提示すると追究したくなります。
 理科5年「電磁石」の単元で電磁石と磁石の釣り竿で魚を釣ってみました。普通の磁石だと魚は釣れますが、取り外せません。電磁石の釣り竿だと外すことができます。この事実から<もっと便利で強くするにはどうしたらいいのか>という課題ができそれを追究していく流れを考えました。
 実際の授業では、二つ比べると磁石釣り竿は強くて沢山釣れます。電磁石釣り竿は弱いけど取り外せます。しかし、どちらもマグロは釣れません。<大きなマグロを釣るにはどうしたらいいか><便利で強い釣り竿を作るにはどうしたらいいか>という単元を通す課題ができました。
 理科の授業だけでなく、導入段階でどれだけ課題意識が持てるか、ゴール意識が持てるかが大切と思って実践していますが、難しいです。国語でも単元を貫く課題は大事だと思っています。  

丸岡 「どうして」という疑問を持って思わず追求したくなるためには、子どもの心を動かす教材との出会いを工夫することが大切だと思います。
 社会で縄文時代の平均寿命(十四歳・十五歳)を提示すると「ええっ、短い」という反応があります。「今八十五歳・九十歳まで生きられるのに、どうして短かったのだろう」と驚きが自然とそのまま課題につながりました。そうすると子ども達は、「食事ではないか」「住まいではないか」というように、衣食住に自然と注視していきました。そこで、次の弥生時代も寿命を提示すると、「延びたのには何かわけがあるのではないか」と課題が出来ました。
 感動したり驚いたり心を動かすものが子どもの課題になっていくのではないでしょうか。いかに感動と疑問を持つ場をこちら側が創るかは大きなことだと思います。
 それと集団で学ぶよさを味わわせることとや努力が実を結ぶという経験を積んでおくことは必要なことだと思います。運動会で赤と白に分かれ台風の目という全校競技をしました。練習では赤が圧倒的に負けていました。すると、リーダーの子が「先生このままでは負ける。練習したい」と言い、昼休みに全校児童を集めて運動場で練習し始めました。掃除を早めに切り上げて練習した結果、本番では負けましたが、かなり差は縮まりました。
 このことで、子ども達は、練習したら結果に繋がると分かったのです。学習で言うと頑張った分だけ結果に繋がる。漢字も計算もやっただけ結果に繋がると分かった子は、自然と自分からするようになると思われます。

塗谷 集団で学ぶよさを自分も同じように考えています。集団で学ぶよさは自分が考えつかなかったことに気づかされることです。少人数の交流・ペア・フリーの交流をしているうちに、自分は気づかなかったけれど、他の人にこんな考えあったと子どもたちの中に増えていくと「いろいろな考えを聞けて楽しいな」「~さんのおかげで自分の学びが深まった」という思いになる子が増えました。


松多 学ぶことを通して新しいことを見つけた、学びが増えた経験をすることが大事だと思います。それだけでなく、学ぶことが楽しいということも大事です。
 分かる・できるが最優先された授業では、分からない子・できない子が置き去りにされがちです。分からない子・できない子にも居場所がある授業づくりを考えて実践していきたいと思います。そのためには、日々の積み重ねが大切です。
 また、「やれないかもしれないけどやろう」と挑戦していく子を育てていきたいとも思っています。やろうと思って挑んだ子が良かったと思える授業を創っていきたいです。
 子ども達にとって大事なことは、一人一人がその時間に伸びるということです。伸びるということがあり、そして伸びたという自覚が持てたらさらに伸びることができます。伸びるということを土台にして,新たな課題にチャレンジしていくことも出来ます。
 子どもの気持ちを大事にした鍛える授業を実践していきたいです。そのためには,子ども達に寄り添い向き合うことが必要だと思います。初任研導の先生に「子どもの半歩前を歩く授業をしなさい」と言われました。一歩ではなく半歩。それは、子どもの声を聞いて子どもと創っていく授業ではないかと分かってきました。

司会 出来たことを自覚させる授業は、子どもに寄り添うことが必要です。また、子どもが自覚するというのは、ノート指導も欠かせませんね。

松多 子どもが克服する課題は一人一人違います。ノートが書けないのに書けたことが自信に繋がるということもあれば、発表できなかったのに発表できたという子もいます。今までノートを見て発表していたけれど相手の反応によって発表することができたなど、多様です。一人一人の成長が結集してクラス全体が鍛えられるという面を持っていなければならないと考えています。
 また「学びに向かう力」を育てるときには,どの子も問題を見つける力・考える力が必要になってきますので、その子なりの見方・考え方を育んでやりたいと思います。

塗谷 自分が伸びたと感じる事が大事です。その点では、まとめよりふりかえりが大事ではないでしょうか。初めは~だったけど~できたと成長が自覚できたら良いですね。
「学びに向かう力」を育てるために,学級経営をどのようにすれば良いのかは、悩むところです。


司会 子ども自身が分からないことが「分からない」と言えなければ力になりません。こんなことを相談したいと言える学級が大事です。

松多 学級経営は基盤です。学校は学力だけではなく,生活力を鍛えたり体力を鍛えたりするものが全てそろっている場です。規律やルールという部分と、人と関わる思いやりという部分でも育ててあげないといけないと思います。

丸岡 学級は、何を言っても認めてもらえる、受け入れてもらえる場所だと思っています。授業をする時、この時間に身に付けさせたいことがあり、誤答だと無意識的に排除したり何気ない教師の動きや言葉が子どもを傷付けたりすることがあります。何を言っても認めてもらえる環境が大事です。

司会 今まで教材との出会いや驚き、やってみたいことを大事にしたいということを話し合ってきました。集団で学ぶよさは主体的な学びに繋がります。
 努力は実を結ぶということもそうです。学ぶことは楽しいと子どもたちに自覚させるということや鍛えることも大事であるとの思いに至りました。
 最後になりましたが、鍛える・育てるためには、具体的にどんな取組ができるかについて考えをお聞かせください。

丸岡 4月には聞くことを徹底指導することです。基本は聞くことだと思っています。聞くことで話せるようになります。

塗谷 相手の方を向いて反応しながら聞くことが大事ですが、なかなか鍛えるのは難しいです。
 また、みんなが参加しみんなで学ぼうとする雰囲気が大事だと思います。一人一人が見通しを持って,自分なりに個人解決の前段階の考えを持てることも大事かなとも思います。

松多 子どもへの賞賛や応援をおくることでしょうか。鍛える・育てる機会は、授業のちょっとした場面にあります。子どもの頑張りを具体的に誉めること、自信がないときには勇気づけてあげることが大事だと思っています。

司会 みなさんのこれまでのお話から学びに向かう力を育てるには、子どもに寄り添う授業を展開するとともに、一方で授業の中で子どもを鍛えることも必要なのですね。そうした中、子どもが学習する楽しみや意義を見出せるような教材研究、教師の働きかけを工夫することで、子どもと教師で授業を創っていくことを大切にしたいというお話をしていただきました。ご自身のこれまでの経験に基づいた貴重なお話をしていただきました。特に若先生には、大いに参考になるのではないかと思います。これからも着実に実践を積み重ねていただければと思います。今日は、本当に良いお話を聞かせていただき、実りある座談会でした。