プロ教師への道 Ⅱ~授業づくり~

この内容は、会報「教育のひろば石川・№163(令和5年2月発行)」に掲載したものです。

語り手と聞き手という対談形式で開催

これからの教育を担う若い教師への熱きメッセージ
~子どもそして親から信頼されるプロ教師への道~
野田 大介(金沢市味噌蔵町公民館長・元金沢市立十一屋小学校長 )  

「令和4年8月27日(土)文教会館」開催 メンバー

語り手  野田 大介(金沢市味噌蔵町公民館長・元十一屋小学校長 )
聞き手  山下 修一(金沢教育振興会 理事長)
記録者  釼地扶美子 (金沢教育振興会 幹事)
     中泉 隆子 (金沢教育振興会 幹事)

第二部「授業づくり」
プロ教師への道Ⅱ 「教育を担う教師への熱きメッセージ」
 ~子どもが学びがいがあり、力を出し切る授業をつくる~

山下 昨年はプロ教師への道と題して「学習集団づくり」についてお話しして頂  きました。今年は「授業づくり」についてお話を伺おうと思います。野田先  生の考える「授業」についてお聞かせてください。

野田 「授業とは何か」を話す前に、今現場では新型コロナウイルスの影響で、  授業が遅れるため、授業を進めることに力点をおかざるをえなくなっていま  す。そのため立ち止まって考えたり活動したりする時間が少なく、子どもが  授業を面白くないと感じている状況が起こっていると聞いています。残念な  ことです。
   私は、授業とは子どもが変わること、子どもを変えることだと思っていま  す。知らなかったことを知る、間違っていたことに気付いて修正したり訂正  したりする、或いは苦手なことを練習し上達する、断片的で浅かった子ども  の考えがまとまり深まることが授業だと考えます。
   授業を終えて、僕はこんな新しいことを知ったよ、私はこんなことが出来  るようになったよ、間違いが分かり正しいことが分かった等の経験をいっぱ  いさせて、授業で自分が変わることが出来た、授業を受けて良かったという  思いをつくることを大切にしてほしいと思います。
山下 「子どもが変わること」が授業だとお伺いしました。では、子どもにとっ  て学びとは何でしょうか。
野田 一つは、どんな内容を学ぶかという中身です。学問としての価値(先達の  が残した文化遺産)を学ぶと同時に、子どもにとって価値ある内容を学ぶと  いうこと。「何を学ぶ」かということです。
   もう一つは「どのように学ぶか」ということです。以前は問題解決学習や  発展学習、探究学習と言われました。今は、主体的・対話的で深い学びと言  われていますが要は子ども達がどのように学ぶかを言っていると思います。  主体的に学ぶということは子どもの自立につながり自己肯定感を育みます。  そして、対話的な学びは、人への温かさ優しさを育む、支え合う学びです。  学びを通しての人間教育です。そのように考えて先生達は取り組んでいくと  良いと思います。
山下 では、子ども達の主体的な学びをどのように進めていけば良いのでしょう  か。
野田 主体的な学びを作り出すには、子どもが教材から様々な疑問を見つけ出す  ことが大事です。そうすると、子ども達は自然に動き出します。そのために  は、教材との出会いを工夫することが大切です。
   社会科を例にしてお話しします。教師は子どもにとらえさせたい内容、つ  まり、社会の様子や仕組み、人々のくらしや仕事と自然条件・社会条件との  繋がり歴史的な出来事とその意味等を理解させるために教材を選びますが、  教材が子どもの心に響くものでないと「教材との出会い」は感動的になりま  せん。その際のポイントは
  ①子どもの問いが生まれる教材との出会い、強烈な問いが生まれれば子ども   は動き出します。
  ②子どもの過去の経験や知識をくつがえす教材の提示。
  ③子どもの意表をつく教材の提示。
  ④子どもが体験的に学べる地域教材。
  等の開発です。
   子どもは自分の経験と置かれている環境で教材と対話します。そのために  は、子どもの社会への興味関心をつかむことが大切です。新聞の切り抜きや  歴史物語等、子どもの社会への興味関心を高める環境づくりに日頃から務め  ることも大事です。
   また、当たり前だと思っていることや常識をくつがえす教材の提示は、子  どもの意欲的な学びを生み出します。例えば、火事現場の近くに消防車が集  まると考えている子ども達に、現場から離れた位置に停車している消防車が  たくさんいることを知らせると、子ども達の常識はくつがえされ、疑問が生  まれます。理由を知りたいと動き出します。
   さらに、子どもの意表をつく教材の提示は驚きが生まれ、意欲的に追究を  始めます。大きな自動車工場の中に、所々に自転車が置かれていることを知  らせると、その理由を知りたくなります。流れ作業と分業に携わる働き手が  トイレへの移動のために、自転車が必要なことを知ると、工場の大きさや流  れ作業の理解が深まります。  

   さらに、見学や聞き取りといった社会科特有の活動は、地域教材で学ぶこ  とにより可能になります。子どもが歩いて地域教材について調べ、五感を使  う学習は、社会科を学ぶ楽しさを子どもに気付かせてくれます。地域の農家  や工場を教材とする学習の見学や聞き取りによって、生産者との出会いが生  まれ実感のある学びとなります。商店やスーパー、ごみ処理、水道を教材と  する学習は、消費者としての自分の生活を見直すことになります。地域教材  を開発し、年間計画に位置づけることは社会科の学習では大切なことです
   社会科以外でも子ども達が疑問を持つような教材との出会いを考えてきま  した。算数科のグラフを読み取る授業では、表題が付いていない、メモリも  なく不備なグラフをあえて提示し、子どもの問いを持たせたこともありまし  た。いつも子どもを驚かせたいという気持ちで教材を眺めていると様々な工  夫が出来ます。そうすると授業が楽しくなります。子ども達が追究したくな  るような課題設定を心がけます。
   子ども達が動き出す学習課題にするためには、
  ①教材と教材のずれを利用する。
  ②子どもの考えと教材の違いを気づかせる。
  ③子どもどうしの考えの違いを明確にする。
  ④具体的な体験をさせることで感情を揺さぶる。
  等が大事です。そんな出会わせ方をさせて学習課題を作ると、子どもが動き  出すのではないでしょうか。そして、配慮したいことは一部の子の疑問で授  業を進めるのではなく、クラス全員の課題にするための活動にも時間をかけ  る必要があります。丁寧に学級全体の課題へと高めます。
山下 次に、対話的な学びについてお話しください。
野田 私は子どもの他者との出会いと交流を対話的な学びと考えています。学級  の仲間と多様な考えを交流しながら学ぶことで、教材についての考えが深ま  ります。授業をみせていただくと、いきなり「さあ、みんなで話し合ってご  らん」と交流させようとする先生方がいます。絶対無理です。自力解決の時  間を確保し自分の考えが出来上がった状態で交流させなければいけません。
   そのためには、子ども達が思考錯誤しながら自分なりに学ぶための時間の  確保が大事です。線分図や関係図を使わせる、イラストを描かせる等の個別  指導をして自分の考えを持たせることですね。教科書や板書丸写しではなく  自分の言葉で書くことの指導がいります。

   また、立場がはっきりしないと子ども達の学び合いは生まれません。Aな  のかBなのかと立場を明確にすることは大変重要です。でも、自分の考えが  あってもなかなか言えない子が多い。自分の言葉で自分の考えを語るという  のは、子ども達にとってはハードルが高いです。心の通じ合うものがないと  出来ないことだからです。相手の人格を認めている、相手が自分の言うこと  を分ってくれる、励ましてくれる雰囲気がクラス  に必要です。対話的な  学びを成立させるためには、心が通じ合い、お互いに励まし合える雰囲気が  学習集団の中に醸成されていることが大切です。
   そのためにはクラスの中に聴く文化を作ることです。聴くという事は人へ  の優しさだと私は思っています。聴くにはエネルギーが必要であり、相手を  受け入れる心が育つことが必要です。その結果対話的な学びが生まれます。
   対話的な学びは、自分の考えを主張すると同時に、各々の考えを謙虚に聞  く子どもに育てることを大切にしています。また、能力差のある多様な子ど  もたちが全員がわかるために、支え合う学びです。そのためには、分からな  いと言える子どもや本音で話せる子どもに育てることも必要です。
山下 対話的な学びには、心が通じ合う、相手の人格を認めることが必要なので  すね。
野田 また、子ども達に抑圧されたものがあると話しにくい。抑圧されているこ  とを取り除くこと、分かりやすい話し方を身につけさせることも大事です。
   授業を参観すると、話型が前面に貼ってあるクラスがありますが、あまり  それにとらわれず、話しやすい雰囲気にさせる方が良いと思う時があります  自信がない時は「たぶん」を使わせると良いでしょう。「僕はたぶん~だと  思う」という話し方をさせる。また、「例えば」を使うと話しやすくなりま  す。演繹的な話し方です。「つまり」と言ったら言いやすいとも教えます。  要は、子ども達が話しやすい話し方をクラスの中で作っていくことが大切な  のです。
山下 自分の考えをなかなか伝えられない子には、分かりやすい話し方を身につ  けさせるといいですね。ノートに書くというのも大切ではないですか。
野田 ノートに書くことで自分の考えが固まります。ノートに書くことで子ども  達は話しやすくなります。ノート指導には力をいれてきました。
   私は子どものノートを頼りにしていました。授業が終わるとノートを集め  子どもの思考がどの方向を向いていたのかを考えました。そして明日の授業  はどこから始めようかと考えました。ノートというのは子どもにとってもみ  んなと学習する時に大切なアイテムだと思いますが、タブレットの活用によ  って軽視されがちになるのではないかと危惧しています。
山下 では、子どもたちの対話的な学びを活発にするために大事なことは何です  か。
野田 大事なことは、クラスに「自由」と「一体感」を作ることです。どの子に  も居場所があることで、クラスに「自由」と「一体感」が生まれます。居場  所がある子どもは気兼ねしないで自分の力を100%出せるから、とても生  き生きした子どもらしい元気な顔をしています。授業で活躍しています。
   では、どうしたら居場所が出来るのか。教師の褒め方が大切です。あなた  にはこんな良いところがあるよとその子の良い所を褒める。先生は良い所見  つけをして子どもに自信を持たせる。すると、その子はそのクラスに安心し  て居ることができます。先生に認められているから居場所が出来あがってく  るのです。
   居場所が出来上がってくると子どもの表情が変わってきます。そして友達  への優しさが生まれます。それは対話的な学びで心が通じ合うものを作る時  の一つのポイントだと思います。
   どの子にも居場所ができるとクラスには聴く文化が育ってきます。聴く側  に様々な思考の変化が起きます。話す方もクラスのみんなが聴いてくれるの  で、一生懸命話す。分かって欲しいから聴き手に向いて話したり、話し方を  工夫したりするようになります。経験したことを例に話したり、黒板を使っ  て説明したりします。そんな状態になった時、対話的な学びが成立すると言  えるのではないでしょうか。
   どの子にも授業の中で居場所を作ることから対話的な学びが始まるという  のが私の考えです。
山下 それでは、対話的な学びを進めるために必要な教師の授業技術について聞  かせてください。
野田 子ども達の活発な交流を促すのは教師の授業技術です。授業の組織化とも  言われます。学習課題についての子どもの考えを教師が聴き取り、授業に位  置付け活かすことが求められます。特に子どもの疑問や問いを大切にする姿  勢が必要です。授業の上手な先生は子どもをしっかり見ているから、子ども  の疑問や問いを見逃しません。そしてつぶやきも聞き逃しません。授業技術  の高い先生は子どもを見ていますので、子どものつまずきや、わからなさを  察知出来きます。あの子は今分からなくなっていると気付き、何を思ってい  るかを聞き取りするという子どもとの関わりを大切にします。   
   また、絶対に曖昧な発問をしない。子どもが分かる明確な発問をすること  です。そして、学級全体の子どもを見ることです。先生は、発言している子  の考えをしっかり聞くのが基本ですが、そうしながらさりげなく学級全体を  見ることが必要です。頷きながら聴いている子、首をかしげながら聴いてい  る子、ぼっとしている子に気付くことが必要です。
   板書も大切です。板書計画を立てることは大事ですが、子どもの考えで変  更する柔軟性も必要です。教師はきれいな字でなくてもいいから一定の速さ  で正しい文字で書くことを身に付けておかなければなりません。子どもにと  って見やすい板書にすることが必要です。

   さらに、書くことの指導を怠らないことです。書くということは全員が学  習に参加することです。発言だけだったら一部の子しか学習に参加できませ  ん。しかし、書けば全員の子が学習に参加できます。書かせることは大事で  す。ところが書くことに心理的な抵抗がある子も多くいます。毎日書かせる  時間を確保することで、書くことを好む子どもにすることができます。四月  当初は一人ひとりの書く速さに差がありますが、一学期を終える頃にはそれ  ほど差がなくなり、どの子どもも書くことをいとわなくなります。ノートに  書かせることを大切にします。ワークシートと違い、ノートは自由に書く量  を増やすことができます。子どもはノートを見ることで、学習の足跡を振り  返るだけでなく、見通しを持って学習することができ安心して学習に参加で  きます。でも、六年生になったのに二、三行書くことがやっとという子ども  がいます。それは、学校の責任だと思います。一年生からの積み重ねがない  からです。一年生の時から一日10分間でも良い、書き写しでも良いので書  くことを習慣化させる。そうすると書くことに抵抗がなくなり、書くことが  楽しくなる。そういう状態を学校全体で作り出さなくてはなりません。書く  ことは子どもへの学習の開放であると思っています。
  ( 中略 )
山下 授業の最後の段階が曖昧だと主体的な学びにはならない。子どもがどう変  容したかを確認する段階で、分かったことや出来たこと、上達したこと、深  まったことを自覚するようなまとめであって欲しいですね。そして、子ども  の変容を教師は賞賛したり励ましたりして、自信と喜びを持たせることが主  体的な学びを育てることになるのですね。では、最後に若い先生方が良い授  業を作るにはどうしたら良いかお聞かせください。
野田 授業は一般化しにくい。各教科によっても違いがあります。また、授業は  教師の個性が現れます。授業力の優れた先生ほど個性的です。若い先生方に  あえて一般化したポイントをお話しします。
   一つ目は導入の工夫をするということです。具体的なものから授業を始め  てください。授業は「易から難へ」「具体から抽象へ」と展開するのが基本  です。導入が抽象的な内容だと、子どもの学びの意欲は喚起されません。高  校の若い先生の授業でなかなか乗ってこない生徒達を見ました。「実物を持  ってくると違うよ。」と助言しました。実物を見せると生徒達の目の色が違  う。実物は導入に有効でした。
   二つ目は適切な課題を提示することです。長い課題ではなく、せいぜい2  0字程度で行数は二行までが適切です。子どもに分かる具体的な課題になっ  ているかを確認しましょう。
   三つ目は授業展開に連続性を持たせることです。最近特に、これが心配で  す。以前先輩の先生が、「子どもの意識が連続する授業が大事だ。」という  ことをよくおっしゃっていました。授業は連続して展開されます。子どもの  思考は決して飛躍するのではなく、子どもは段階を追って学びます。ところ  が教師が余計なことを言って連続性を断ち、子ども達が黙ってしまうことが  あります。自分がこの発問をするとあの子はこう言う、他の子はこう言う等  予想して授業を構成する。子どもの意識がこれで連続するかな、思考を断ち  切っていないかなと考えることが大事で、ストーリー性のある展開が求めら  れます。
   四つ目は分かりやすい板書の工夫です。最近書きすぎる板書が多い。少な  い板書もいけませんが、山ほど書いてあると何が書いてあるか分からない。  子どもに分かりやすい板書を心掛けて欲しいと思います。板書は練習できま  す。前の日に教室に行って練習して帰ることですね。練習すれば上手くなり  ます。子どもや同僚等他者の評価を受けることも大切です。
   五つ目は分かりやすい話し方を身に付けることです。センテンスは短く、  語尾ははっきり、抑揚を付けることです。間があることも大事です。教師が  矢継ぎ早に話すと子ども達に考える間がない。さらに、接続語や接続詞は出  来るだけ使わない方が良いです。

   六つ目は授業における「発問の役割」と「発問依存の授業の課題」を知る  ことです。発問の役割としては、
  ①既習の学習内容を想起させ、新しい学習に向かわせる。
  ②学習課題をつかませ、学習を積極的にさせる。
  ③言葉や表現の仕方について思考を広げ、深くさせる。
  ④イメージを触発し、想像を豊かにさせる。
  ⑤既得の知識や理解をゆさぶり、理解力、思考力を高める。
  ⑥学習者の理解や思考を評価するとともに、指導の成果も評価する。
  等があげられます。
   一方で、発問依存の授業の課題としては、教師中心の授業になりやすいこ  とです。子どもから教師への問いが出にくい。発言が上位の子どもに偏り、  応答者が広がらない。話すことに終始し、書く場面が生まれないこともマイ  ナスです。
   最後は環境作りです。教室前面には不必要な掲示物はなくし、子どもが学  習に集中しやすいシンプルなものにすることです。子どもが安心して学習し  仲間と交流しやすい座席配置にも配慮する。一斉学習やグループ学習、対話  的な学習等に応じて学習形態も変更することも大事なことです。
   しかし、一番大事なのは教師の表情や動きです。明るさや温かさが必要で  あり、子どもが学びやすい環境づくりに欠かせません。
山下 教師として良い授業を作るための7つのポイントをあげて頂きました。二  度にわたり「プロ教師への道」と題して野田先生のお考えをお伺いしました  が、最後に、現場で児童生徒と授業づくりに励んでいる先生方にメッセージ  をお願いします。
野田 全ての子ども達は勉強する力を身に付けたいという希望を持っています。  そのために勉強の苦しみ、喜びの中にいます。勉強の得意な子どもも苦手な  子どもも力を出しきっている授業をするのが教師の使命です。教師自らが子  ども達の期待に答えられるように、日々授業研究に取り組み、苦しさを乗り  越えて自分を成長させていく覚悟がいります。それがプロ教師になるための  道だと考えています。
山下 かつて授業の名人と呼ばれた先輩教師「国語の村端」「理科の山形」は、  求める教師の目標でした。「プロ教師の道」と題し二度に渡って野田先生の  考えをお伺いする機会を得て、とても感謝しております。有り難うございま  した。

令和5年度は座談会として「学校研究の必要性について」予定しています。