若手の悩みに先輩が答える

会報「教育のひろば石川・№151(平成31年2月発行)」に掲載した内容です。

ここ3年間、若い先生に向け「授業づくり」についての座談会を開催してきました。
・平成27年度は「子どもが目を輝かせる授業」←掲載済み
・平成28年度は「生徒の学びの心に火をつける授業」←掲載済み
・平成29年度は「こなす授業から創る授業へ」←掲載済み
・平成30年度は「魂のない教師に、子ども達の心は動かない」
    ~若い教師の学級づくり・授業づくりの悩みに先輩教師が答える~
「教師力」は、「学級づくり・授業づくり」が最大の課題です。この座談会での話題が、若い教師達の刺激になることを願っています。

座談会「参加者」敬称略

出席者  岡  朝子(元金沢市立清泉中学校長)
     小山 孝成(元金沢市立諸江町小学校長)
     釼地扶美子(元金沢市教育プラザ研修指導員)
     太田 秀人(金沢市立浅野川小学校長)
若手教師 久湊沙由美(金沢市立米丸小学校6年担任)
     辻原美紗貴(金沢市立南小立野小学校6年担任)
     三原裕太郎(金沢市立清泉中学校国語科担当)
     堀 江梨香(金沢市立高岡中学校社会科担当)
司会者   野田 大介(石川県退職公務員連盟 事務局長)

座談会記録抜粋

 

司会 座談会開催一年目は「子どもが目を輝かせる授業~小学校国語科・算数科~」、二年目は中学校を対象にして「生徒の学びの心に火を付ける授業」昨年度は、「こなす授業から創る授業へ」というテーマでした。その内容は、教育振興会だより「教育のひろば石川」で広く発信してきました。しかし、そこに込められた思いや願いが若い先生に今一つ伝わっていないのではないかと感じていました。
 そこで、今年の座談会は、若い先生にスポットをあて、学級づくりや授業づくりについて、日頃の悩みや思いを具体的に語っていただき、先輩の先生方からアドバイスをいただく形で進めていきたいと思います。

三原 授業づくりで悩んでいます。国語科で各観点の力をつけたい、特に子どもが困っている所を伸ばしてあげたいとの思いで実践しています。学年の始めには、子ども達にアンケートをとり、どの観点が苦手なのかということを聞くのですが、毎年、文章を書くことが苦手という子が多いのです。
 一年生から持ち上がり、今、三年生の担任をしています。書くことの指導として、書き方や校正などを教え、書かせて添削することを続けています。でも、アンケートでは書くが苦手という結果が出るのです。テストでも、書く観点の点数が伸び悩んでいるのが現状です。
 指導を継続するしかないのかとも思いますが、効果的な手段や方法があったら教えて欲しいと思います。

辻原 私の悩みは、学級づくりです。一年目は三年生の担任でした。二年目に一年生を持ち、今年は六年生担任です。このギャップはすごいです。一年生はしっかり規律をつけて、学校生活に慣れることが大事という思いで取り組んできました。しかし、六年生になると、ある程度子ども達自身のスタイルや去年までの先生のスタイル等で学級が出来上がっています。その中で、どういうふうに学級経営したら良いのかと日々考えます。
 子ども達に押しつけるのではなくて、こんなクラスにしたいという思いや六年生としての自覚を持たせたいと思っています。昨年度の六年生は、しっかりしていて頼りになり、学校の中心でかっこ良く見えました。その姿と比べると、自分の力のなさで六年生らしい力が引き出せていないのではないかと思っています。

久湊 先日、本を読んでいると、「今の若者が会議に出ていても、自分の気持ちをしゃべらず、なんとなくで済ませている。でも、若者にとっては、自分がしゃべらなかったら上手くまとまるからそれで良いと思っている。」とありました。また、「考える力を伸ばす必要がある。」との言葉に、自分の学級はどうかなと思いました。
 学級の子ども達は、算数科を始めいろんな場面で、知識や技能を問う問題は簡単にできます。でも、「何でそうなるのか」「どうしてか」との問いに弱いです。社会科でも、時代ごとの出来事は答えられるけど、「何で起きたの」という思考問では、「分からない」「なんとなく」との声が返ってくるのがクラスの現状です。
 考える力が育っていなかったら、将来大人になったとしても、流される人になってしまうのではないかと思います。どの教科でも、考えたくなるような課題や発問を工夫して、子ども達の考えを引き出したいです。また、「なぜ」を追求できる子ども達にしたいなと思っています。教材研究が大事だとは思っていますがアプローチの仕方も悩んでいます。

堀  中学校で社会科の授業をするようになって、ずっと思っていることがあります。それは、三年生になったら受験があり、一時間に進まなくていけない内容まで終わらせる必要に迫られることです。
 生徒に考えさせたい、発言させたいと思うと時間がかかります。つい延びてしまい、一時間では終わらず、次の時間に積み残し、どんどん遅れていきます。でも、中学校三年間の終わりは待ってくれません。受験までにきちんと習得すべき内容を理解させたり、定着させなくてはなりません。そうすると、生徒に考えさせる時間を減らしてしまい、自分がしゃべってしまうことが多くなります。授業の中で、押さえるべきことをきちんと押さえながらも、生徒主体の授業ができないのが悩みです。

司会 若い先生方の悩みをお聞きしました。では次に、先輩の先生方からお話をお願いします。

岡  中学校国語科の観点は四つありますが、子ども達が「書く」という観点の力をつけることに苦手意識があり、どう工夫したらいいかということですね。
 一般に四観点の中でも「書くこと」への苦手意識は多くの子ども達に共通しているのではないでしょうか。しかし、国語科に求められている言語力の中でも、「書く力」は今後益々重要性をもってきます。
 「書く力」は「考え・感じ・表現し・批判し・分析する」力と言えます。教師はそのことを踏まえ、教材分析や研究を通して「書く分野」のどの力を伸ばすのかについて工夫する必要があります。例えば、「和歌」の授業ですが、「読んで感じたことを書きなさい」ではなく、「歌の詠まれた状況や場面を五感をー視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚ーを使って捉える」「作者の心が動いた瞬間」「感動の中心」「この歌の魅力」等と四つの課題にして捉えさせ、言葉によって明確化するために書かせる。という過程をとられた先生もおられ、子ども達の深い読みにつながり書く力も高いものがありました。
 また「書く力」をつけていく上で、教師が配慮するべきは、四観点の中の「読む力」をどうつけていくかということです。「読む力は書く力」です。平行読書や発展読書など多くの本や文章に触れ、感動したり新しく発見したり、豊かな言葉遣いを学び、言葉への感性を高める工夫をしていくことが「書く力」を伸ばすことにつながるでしょう。
 「深い課題づくり」「書く活動の多様化」「楽しく豊かな学びや発見のある授業づくり」等、教師にとって授業づくりは課題も多いけれど、子ども達の笑顔にも出会える、一番やりがいのあることではないでしょうか。

司会 読みの力がつかなければ書く力がつかない。ただ書きなさいと言っただけでは書けない。こうすれば書けるよと指導しなければ、ということですね。

小山 二点お話しをします。一点目は、学習指導要領のとらえ方です。私が各学校の研究授業に参加して一番感じているのは、各教科のこれまでの参考資料や指導書から授業づくりを始めている方が非常に多いことです。できれば、年一・二回の研究授業の折に学習指導要領を読み込み「何を学ばせなければいけないか」「何を学ばせたいのか」を明確にし、授業づくりに取り組みたいものです。
 二点目は、六年生の学級づくりについてです。私も六年生の学級担任をしましたが、なかなか難しかったと感じています。やはり、六年生のスタートをいかにうまく切るかが大事です。巣立っていった卒業生の良さをうまく共有して「素敵な六年生になろう」という気持ちを持たせたいものです。

太田 最近の初任研や二年研など、若手研対象者を見ていると、それぞれの経験に見合った先生になられているなと思っています。
 若い先生方には、是非、「こんなクラスを創りたい」とか、「こんな授業をしたい」とか、あるいは「これなら他の人に絶対負けない」という教育観を持ってほしいと思います。
 その教育観をベースにして、日々の授業や毎日の生徒指導を行うことが大切です。教育観が自分の仕事をする上での理想というか目標になっていれば、子ども達を通して、自分の指導に何が足りないのか、が見えてきます。隣のクラスや昨年担当したクラスと比べたりするのではないのです。
 私の教育観は、初任の時と比べると、変わらないものもあれば、変わったものもあります。変わった理由は、経験です。失敗や成功、挫折をたくさん経験して積み上げてきたからこそ、今のものがあるのです。
 これまでを振り返ると、初任の時の教育への情熱や、三十代、四十代で経験して得たものや考えてきたこと、やってきたことなどは、それはそれで良かったと思います。決して、若い頃の教育観が稚拙で間違っていたとは思いません。だから皆さんも、子ども達の実態をよく見て、自分の描く授業スタイルや学級経営に近づけていく努力を繰り返し行ってほしいと思います

釼地 私も学級経営についてお話ししたいと思います。
 自分が学級担任をしているとき、安心して話せる、本当の自分を出せる、そういう学級づくりをしたいと考えていました。子ども達が安心して話せるということは素晴らしいことですし、一日のうちの大半を学校で過ごすのでから、大事なことだと思います。
 そのためには「子ども達をよく見る」ことです。休み時間はどう過ごしているのか、給食はどんな様子か等よく見ることです。また、あんまり褒められてない子はどんなときに褒めればいいのか、とにかく子ども達をよく見て褒めるということを大事にして学級づくりをしてきました。
 また、六年生を担任した時には、どんな六年生になりたいか、どんな姿で学校を卒業していきたいか、ということを最初に話し合いました。そして、一年間の行事を通して、子ども達一人一人に自分の関わりを自覚させました。具体的にできた時は、評価をしたり褒めたりして、めざす卒業の姿に近づけるように育ててきました。卒業した時に、「一年間頑張ってよかったなあ」という感動は、本当に得がたいものです。これから先、子ども達が見通しや目的を持って過ごせるように、具体的な手立てを一人一人に考えてあげれたら良いと思います。

司会 自分の信念を持つこと。子ども達にとって居場所があり安心できる学級づくりをするために、もっと子どもを見て認めることが大事だというお話でした。また、自分でしっかりと指導要領を読んで、教材と向き合うことも必要ですね。皆さんの悩みに対する先輩達の意見を伺いましたが、他に質問はありますか。

堀  小学校では子ども達と一緒に課題をつくることを大切にされています。中学校では生徒と課題をつくるのに、時間もかかります。課題は自分が与えた上で考える場面に時間をかければ良いのか、生徒と作ることを大切にした方が良いのでしょうか。

岡  「課題づくり」は、中学校でも教師側が提示した方が後の学習が深まる場合と、生徒とともに課題をつくったら良い方とがあり、教材によってだと思います。ゴールまでの見通しは、生徒ではなかなか決められない時、よく「カード」を利用することがあります。「疑問に思った事・知りたい事・分かった事」等をカードに記入し、黒板に並べて掲示し焦点化していく。その過程そのものの中に学びがあるので、生徒の考えていることを分析・仕分けし、キーワード化できる教師の力量が問われる場面とも言えます。

釼地 国語科では単元の見通しを持たせることが課題作りに大きく影響してきます。他の教科でも同じだと思うのですが、「何が出来たらいいのか」「どんな力が自分についてたら良いのか」を子ども達と共に共有することです。そして、力をつけるための学習を展開することが大事になってきます。最近先生方はモデルを提示していますが、「こんなことを書くには、どうしたらいいか」を子ども達に考えさせた上で、どんな順番で学習していけばいいか、見通しを持たせれば、一時間一時間子ども達が今の時間でやるべきことが見えてくると思います。先生が指示しなくても、子ども達自身で、進めていけるようになります。単元の導入で見通しを持たせることが、何より大事になってきます。

太田 私は算数科を中心に実践してきました。教材研究をする際は、書かれていることや聞いたことに対して「本当にそうなのかな?」という立場に身をおいてきました。つまり、批判的に物事を見てみるということです。指導書などを見ると、整然と授業の流れが書いてあります。その通りにやればある程度できるかもしれませんが、自分の思いが薄れていきます。その一つの例として、私が行った三年生の「円」の授業についてお話しします。
 単元の導入段階で、子ども達はきれいに弧を描きたいのに、実際に書いてみると、がたがたになって上手くいきませんでした。教科書には「中心点をとって、そこから等距離の点を集めると円ができる」という内容が書いてあります。私は『色紙を二回折れば真ん中に点ができる』ということを使って、中心点を意識させようと思いました。授業は思った通り進み、がたがたの弧ではなくきれいな弧を描くためには、中心点が必要であることを気付かせる場面になりました。私は二回折った折り目の付いた色紙を黒板に貼りました。子ども達に「これで気付くことはないか?」と聞きましたが、子ども達は気付かないのです。目の前に中心点が見えているのに、意識はまわりの形にいっているので、中心点という見方にはなりませんでした。
 このように、教科書に定理や定義は書いてありますが、児童の実態に合わない授業をすると、それだけを押しつけることにもなりかねないし、授業として成立しなくなってしまう時があります。教科書に書かれていることを理解するだけではなく、「教えるべき内容はこれでいいのか?」「そのまま児童に与えていいのか?」などを考え、教材と児童との溝を埋め、どうやってつなげていくかを探ることが深い教材研究になると思います。その時のキーワードとなるのが「『何』を『どのように』教えるか」です。しかし、一つの指導で全て上手くいくものではありません。同じ学年をまた担任たとしても、子ども達が違えば変わってくるからです。新しい教材になれば、また新たな工夫が必要になってきます。

釼地 最近の国語は、成果物を作るのがゴールになってしまう傾向があります。成果物を作ることは目的ではありません。単元作りでは、教科書教材で学んだことを活かして、他の教材で自力の力でできることが大事だと思います。成果物が出来たからこれで良いとするのではなく、中身の評価も大事です。子ども達が自力でできるようにするにはどうしたら良いのかを考えなくてはいけません。
 また、課題に対して自分の考えをしっかり持たせることです。そして、自分の考えがどのように変容していったかを振り返り、書かせることです。自己評価も必要です。そして、その積み重ねが生涯にわたる力を付けることになるのです。転移する力を意識することですね。

小山 先ほど教材研究の話をしましたが、教科書を否定しているわけではありません。しかし、よくよく読み込むと、本当にそれでいいのかと思う部分もあるわけです。
 一番顕著なのが計算の領域です。「3+5のような計算を足し算といいます」「5ー2のような計算を引き算といいます」と。後は同じような表現で定義されていきます。この「ような」とは何なのかを問われたとすると返答に窮しますが、そこで立ち止まって考える教師でありたいものです。教科書を鵜呑みにしていると見えてこないことがあります。自分なりにとらえて考えることが大事だと思います。
 今度改訂される学習指導要領はページ数も多く読み込むことはなかなか大変だろうと思いますが、自分なりの思いでしっかり読み込んで授業をすることです。自分なりの思いがあれば、子ども達はきっとついてきます。

司会 教科書だけではなく、指導要領もしっかり読んで欲しい。必ず意味があります。「これで子ども達に分かるのかな」という疑問をもって授業を組み立てるのが教材研究ですね。

太田 最近、子ども達には実体験や学び合いが必要であると言われています。「何となく分かった」で済ますことなく、「学び合いの授業をすることで、すごく分かった!」、「今日の授業はとても楽しかった!」ということを一人ひとりの児童に実感させることが大切です。友達の考えがきっかけになってまとめにつながったとか、考えが深まったということをノートなどで振り返るだけではなく、その授業を「分かり合えた深まりのある授業」として、クラスのみんなで共有することが重要だと思います。
 自己肯定感が低い子ども達が多い中で、良かった場面を記憶に残し、実感させるのが大事だと思うのです。それは、子ども達だけではなく教師集団でも同じです。「静かに朝自習を行う」。口で言えば簡単なことですが、学校全体の取組となると、全てのクラスで徹底することは難しくなります。私の学校では、取組方法をシンプルに分かりやすくして、職員全員で本気で取り組みました。最初はなかなかできませんでしたが、取り組むうちにできるようになる瞬間がありました。学校全体が朝の十五分間「シーン」となる、そんな瞬間を職員も子ども達も実感として共有しました。この「シーン」の共有は成功体験として残ります。授業や行事、いろいろな場面で「シーン」という言葉を使い、指導することができるようになりました。
 日々の授業やクラスづくりの中で、こんな成功体験を積み重ねることが大切です。それによって自己肯定感を高めることができ、仲間の良さに気付かせていくことができると思います。

司会 若手の皆さんは、問題意識を持ってお仕事をされていると感じました。今は上手くいかなくても、「子ども達一人一人を大切にし、成長させたい」という気持ちを大事にしていれば、必ず教員として成長すると思います。
 教育は子どもに自信を持たせることです。先生方もくじけずに、自分に誇りや自信を持つことを大事にしてください。そして、今日の座談会のように、先輩の先生方に積極的に話を聞いて下さい。出席者の皆さん、今日は本当にありがとうございました。